【ニュースカルチャー ノ・ギュミン記者】「音楽に目的はない。だが、すべてを可能にする力がある。」
アントニオ・ヴィヴァルディはバロック期を代表する作曲家で、「赤毛の司祭」と呼ばれた存在だ。1678年にヴェネツィアで生まれ、聖職と音楽活動を両立させながら欧州各地で活動した。父は音楽家のジョヴァンニ・バッティスタ・ヴィヴァルディで、15歳で神学校に入学。しかし喘息のため修道院での修行は困難を極め、他の志願者より長い年月を経て、ようやく10年後に叙階を受けた。
とりわけヴェネツィアのピエタ孤児院(オスペダーレ・デッラ・ピエタ)で音楽教師を務めた経歴がよく知られている。ピエタ孤児院は高度な音楽教育で名声を博し、才能ある孤児たちによる女性オーケストラと合唱団を編成した。寄宿生活を送る団員たちは格子の向こうから仮面で顔を隠して演奏したが、その演奏は欧州各地の君主や貴族の注目を集め、入学希望の問い合わせが絶えなかった。
ピエタ孤児院に赴任したヴィヴァルディは、教育だけでなくオーケストラのための楽曲を自ら作曲し、生徒一人ひとりに適した楽器を割り当てるなど情熱を注いだ。一部の団員は当代屈指の才能を示し、ヴィヴァルディ自身の創作意欲を刺激した。従来の和声観を揺るがす独創的な主題を築き、聴衆を驚かせる作品を生み出した。この時期の成果を礎に、世界的に知られるクラシック作品の一つ『四季』が誕生した。
『四季』発表300周年を記念し、映画『ビバルディと私』が29日に公開される。18世紀初頭のヴェネツィア、ピエタ孤児院で育ったチェチリア(テクラ・インソリア)がヴィヴァルディ(ミケーレ・リオンディーノ)と出会い、天賦の才を開花させてゆく成長と葛藤を描く作品だ。クラシック公演のチケット売上が1000億を突破する現象や、K-POPによるサンプリング、映画のOSTといった「クラシック・ヒップ」時代の潮流の中で、耳を満たす高品位な音楽映画として注目されている。
本作はイタリアの最高文学賞ストレーガ賞、モンデルロ国際文学賞を受賞したティチアーノ・スカルパの小説『母よ、なぜ私を捨てたのか』(原題:Stabat Mater)を原作にしている。監督はオペラの演出で国際的に評価されるダミアーノ・ミケレート。ミケレートはミラノのスカラ座やロンドンのロイヤル・オペラ・ハウス、ヴェネツィアのラ・フェニーチェ、ベルリンのシュターツオーパーなどで『セビリアの理髪師』『ラ・ボエーム』『リゴレット』『ドン・ジョヴァンニ』『マダム・バタフライ』『カヴァレリア・ルスティカーナ』『マクベス』『ロミオとジュリエット』といった作品を手がけ、近年は2026年ミラノ=コルティナ冬季オリンピック開会式の演出でも世界の注目を集めた。
ミケレート監督は、名前のない演奏者として生きる者が後援者との結婚でしか外界に出られない運命を背負うという設定のもと、ヴィヴァルディと出会ったチェチリアが音楽を通じて自分と向き合い、人生を切り拓こうとする内面を繊細に描いた。この作品は世界の有力映画祭や授賞式で24件の招待・受賞につながっている。とくに現地時間5月6日にローマで行われるイタリアのアカデミー賞、ダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞では脚色、主演女優、作曲、衣装、メイク、ヘア、サウンドの計7部門でノミネートされ、注目を集めている。
映画は、赤毛で喘息を抱えていたヴィヴァルディの一面、ピエタ孤児院で指揮を務めつつバイオリンも演奏したこと、演奏会が高い人気を博したこと、そして多彩な楽器を駆使して作曲に没頭する姿を丁寧に描写している。天才ヴァイオリニストであるチェチリアの才能をヴィヴァルディが見出し、師弟として化学反応を生む過程や、緻密に再現された18世紀のヴェネツィアの風景が強い没入感をもたらす。
プロダクションデザインはガスパレ・デ・パスカリが担当。時代考証のためにピエタ孤児院の過去記録を確認し、多様な資料や当時の遺物・美術作品を参照したほか、ヴェネツィア博物館の担当者への取材も行って細部までこだわった。音楽はミケレート監督とオペラや舞台で共に仕事をしてきたファビオ・マッシモ・カポグロッソが担当し、高品位なクラシック映画の完成に寄与している。
鑑賞のポイントの一つは、芸術への渇望と救済を深い女性叙事として描いた点だ。ヴィヴァルディが無名の少女たちにインスピレーションを与え、彼女たちの人生を変えてゆく過程が印象的に描かれている。主人公チェチリアの成長譚は興味をそそるだけでなく、強い共感を呼び起こす。
俳優陣の圧倒的な演技が作品に厚みを与えている。天才ヴァイオリニスト、チェチリア役のテクラ・インソリアは世界が注目するイタリアのライジングスターだ。ドラマ『アート・オブ・ジョイ』で2024年の第77回カンヌ国際映画祭に招待され注目され、長編映画デビュー作フランチェスコ・コスタビレ監督作『ファミリー』で第81回ヴェネツィア国際映画祭の新人賞を受賞。2025年の第70回ダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞では『ファミリー』『アート・オブ・ジョイ』により主演女優賞と助演女優賞の同時候補に挙がるなど存在感を示した。
ヴィヴァルディ役はミケーレ・リオンディーノが演じる。2010年の第60回ベルリン国際映画祭でEFPシューティングスター賞を受賞し、第69回ヴェネツィア国際映画祭でプレミアム・シネマ・タレント賞、第73回ヴェネツィア国際映画祭でパシネッティ男優賞、2024年の第69回ダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞の男優賞受賞などで名声を築いてきた演技派だ。本作では外見からバイオリン演奏に至るまで高い完成度の演技を見せている。
ニュースカルチャー ノ・ギュミン pressgm@nc.press