名もなき戦場を選んだ男の決断

ハルト | 2026.04.19

ソウル大の代わりに「戦場」を選んだ青年

ソウル大の代わりに「戦場」を選んだ青年

ホン・チャンウォン(ホン・チャンウォン)前国家情報院第1次長は、ソウル大学に合格しながらも陸軍士官学校(43期)を選んだという異色の経歴を持つ、軍人出身の情報工作官だ。1964年、慶尚南道鎮海で生まれた彼は「国家防衛」を理由にエリートコースを捨て、軍の道へ進んだ。その後、特戦司令部配下の707特殊任務大隊で中隊長を務め、国家情報院のブラック要員を経て次官級の情報トップにまで上り詰めた。彼の人生は、文字どおり「名のない戦場」を生涯の舞台に選んだ一例だ。

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707特任隊中隊長、斬首・対テロの最前線

陸士卒業後、彼は陸軍特殊戦司令部傘下の707特殊任務大隊で中隊長を務めた。この部隊は大統領や要人の警護、航空機のハイジャックや人質救出、敵指揮部の斬首や戦略施設の破壊に至るまでを担う最精鋭の対テロ・特殊浸透部隊であり、米デルタフォースなどと合同訓練を行うことでも知られる。ホン・チャンウォンは爆破、浸透、近接戦の訓練を指揮し、部内では「プロフェッショナル」と評された。将官昇進が有力視されていたにもかかわらず、ある時期に軍を離れ、情報戦の世界へ向かった。

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「特殊部隊も弱い」――ブラック要員30年の選択

1990年代初頭、予備役少佐として退役した彼は国家安全企画部(現・国家情報院)に特別採用され、海外工作・対テロを担当するブラック要員に抜擢された。ブラック要員とは、外交官や貿易代表といった公式の身分を用いるホワイト要員とは異なり、身分を秘匿したまま秘密工作に従事する要員を指す。ホン・チャンウォンはアフリカや中東など、殉職者が出るほど危険な地域へ自ら志願し、崩壊していた北朝鮮対応や対テロのHUMINT(人的情報)網を再構築する功績を残した。現地でブラック要員として初めて幹部に特進したという証言も後になって出ている。

国家情報院ナンバー2にまで上り詰めた「情報工作の達人」

安全企画部・国家情報院では、彼は海外工作部門、院長秘書室、在英大使館の政務公使など、ホワイトとブラックの両ラインを幅広く経験した。朴槿恵政権時代には、李炳起(イ・ビョンギ)や李炳鎬(イ・ビョンホ)両院長の秘書室長を務め、その後は院長の対北特使として対北情報や政策調整に当たった。尹錫悦政権下では2023年11月に国家情報院第1次長に任命され、防諜・対テロ・対外情報収集を総括した。情報機関内では「現場工作を最も多く経験した1次長」との評価を受けている。

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「国会投入?707は斬首用の『刃』だ」

707特任隊出身として、彼は最近の戒厳令や非常戒厳をめぐる論争の際、強い警告を発した。報道の取材でホン・チャンウォンは707特任隊の本質を「国会の鎮圧ではなく、斬首・対テロに特化した『刃』」と規定し、政治目的での投入の可能性に懸念を示した。特殊部隊を政争の道具のように扱う認識について「これは狂気の沙汰だ」と率直に批判した箇所は、彼が今も軍人としての思考を持ち続けていることを示している。

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乱世が生んだ真の軍人、名のない戦場の象徴

ホン・チャンウォンの経歴に繰り返し現れるキーワードは「名のない献身」だ。ソウル大の合格証をたたんで陸士を選んだ決断、707特任隊での高強度作戦・訓練、そして国家情報院のブラック要員として30年近く海外工作現場を離れなかった経歴のすべてがそれを物語る。彼の名前が報道に出始めたのは、次官級の1次長に昇任してからと、12月3日の非常戒厳事態に関する証言が出た時からだ。それ以前の公的記録の多くは非公開であり、本人も「存在そのものが記録されない戦場だった」と回想している。

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今も現役のような退役者、なお安全保障を語る

1次長退任後も、彼は放送や講演を通じて軍・情報・対テロの諸問題について発言を続けている。特に12月3日の非常戒厳指示の内幕を暴露し、「情報機関が政治権力の私物とされてはならない」という点を強く訴えて注目を集めた。同時に後輩の軍・情報要員には「職位より重要なのは、危機の瞬間に国家側に立つ判断だ」というメッセージを伝えている。ソウル大ではなく陸士を、将官ではなくブラック要員を選んだ彼の経歴は、そのメッセージが単なる空言ではないことを示す実例として語られている。